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2024.3.25

卒業するみなさんへ

学校長日記
卒業するみなさんへ

第123回生320名のみなさん、卒業おめでとうございます。皆さんは10代の多感な時期を過ごした大阪明星学園を巣立っていきます。

みなさんはコロナ禍の真っ最中に、明星高校に入学、高校2年時には、やや緩和の雰囲気はあったものの、最初の2年間はコロナウイルスに翻弄された学校生活となりました。

ようやく高校3年になった2023年5月に新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に引き下げられ、学園生活も様々な制限を撤廃、コロナ前に実施していた行事の多くが復活する運びとなりました。

ただ、3年というブランクは思いのほか大きく、あらゆる行事は振り出しに戻った感じで手探りからの準備・実施が強いられることになりました。

特に、完全に制限を撤廃した学園祭は、3か年生にとっては初めての経験でした。6か年生にとっても中学2年以来の制限のない学園祭であり、ほぼ忘れているという感じだったかもしれません。本校の学園祭は毎年約五千人もの見学者が来校します。大学の学園祭のように飲食店の出店もあり、とても大規模なものです。ですから、無事に学園祭を実施することは、当然のことではありますが、そんなに簡単なことではありません。先生たちの中にも、大半の生徒が本格的な学園祭をほぼ経験したことがない状況で、制限のない学園祭を実施することには、心配する声がありました。そんな中、最高学年である君たち123回生は、学年で独自に組織した「級長・副級長会」を中心に、学園祭をやりたい、と積極的に声を上げてくれました。そして立ち上げから学園祭終了まで、しっかりとその役割を果たしてくれました。

今年度の学園祭はコロナ禍明けということもあったのか、約5千5百人もの例年以上に多くの来客がありました。これほどの人数をお迎えし、無事、学園祭を終えることができたのは、123回生のみなさんの活躍が大きかったのだと思います。

みなさんは、途切れかかった明星の「学園祭」という行事を繋いでくれました。みなさんが繋いでくれた伝統は後輩たちに確実に受け継がれることになります。感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。 

その123回生のみなさんも明星を去っていきます。そんなみなさんに、少し前、話題となった小説家カズオ・イシグロさんの発言を紹介します。

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俗にいうリベラルアーツ系、あるいはインテリ系の人々は、実はとても狭い世界の中で暮らしています。東京からパリ、ロサンゼルスなどを飛び回ってあたかも国際的に暮らしていると思いがちですが、実はどこへ行っても自分と似たような人たちとしか会っていないのです。

私は最近妻とよく、地域を超える「横の旅行」でなく、同じ通りに住んでいる人がどういう人かをもっと深く知る「縦の旅行」が私たちには必要なのではないか、と話しています。自分の近くに住んでいる人でさえ、私とまったく違う世界に住んでいることがあり、そういう人たちのことこそ知るべきなのです。

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みなさんは今まで、「学校」という非常に狭い世界で生きてきました。これからは、まずは「横の旅行」をしてください。いろいろなところに行って、様々なものを見て、多様な人種、文化的背景を持った人と会ってください。これまでは当たり前と思っていた自分の価値観が大きく揺さぶられるーそんな経験を若いうちに是非積んでほしいと思います。

一方で、カズオ・イシグロさんの言う「縦の旅行」 ―同じ通りに住んでいても、全く違う世界に住んでいる人がいることにも気づける人になってほしいと思います。近くにいる弱い人、困っている人、貧しい人、虐げられている人に気づくことができる、見えないものをみようとする、あるいは見過ごさないようにする「気づく感性」を身に着けてください。

そしてそんな人たちとコミュニケーションをとり、「温かいまなざし」でさりげなく手を差し伸べることができる人であってください。明星で伸ばした自身の能力をそんな人たちのために存分に使ってください。そんなクリスチャンセンスを持った「明星紳士」としてこれからも人生を歩んでほしい、これが先生の心からの願いです。

どうか「気づく感性」と「温かいまなざし」をなくさず、そして堂々と粘り強く、また、しなやかに生きていってほしいと思います。